藤井農園 インタビュー

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東京のフレンチレストラン「フロリレージュ」を始めとする有名な飲食店や事業、個人の顧客合わせて約140の取引がある藤井農園の野菜。長野県佐久市の標高1000mに位置する農園では、野菜自身が持つエネルギーを損なわせない手法で様々な作物が育てられていました。そんな夫婦二人で営む農園を始めたきっかけは「家族」。野菜のみならず、家庭をも育まれる温かさ、豊かさが溢れるお二人に、農業を始めたきっかけや野菜づくりへの想いをお伺いしました。

 

JAPANTWO(JP2):農業をはじめる前は何をされていたのですか?

藤井志郎氏 (藤井氏):私はシステムエンジニア、妻は営業職として、東京にある同じ会社で働いていました。私は社内でソフトを開発していて、営業課にいた妻は私たちエンジニアが作った製品を販売したり、展示会のマネジメントをしたりしていたんです。そして、いわゆる社内恋愛の末に結婚をし、妻は結婚後もその会社で働いて、私は退社をしました。夫のほうが寿退社、という変わったケースです。


JP2:なぜ退社をされたのですか?

藤井氏:たまたま結婚と同時に転職したからです。学生の頃は自然や環境に関わる仕事をしたいと思っていたのですが、すぐにはそういった職に就くことが出来ませんでした。そこで、まずは何か手に職をつけなければと思い、当時これから需要があると言われていたプログラミングを学んで、システムエンジニアとして働いていたんですよね。小さいけれど、まだ世の中にないものを作るんだという活気にあふれた会社でした。チームリーダーになり、プロジェクトの指揮を取ったりするのも楽しかったのですが、やはり「自然や環境に関わる仕事をしたい」という気持ちがあったので、ずっと転職したいと思っていたんです。

JP2:転職後、どのような職業に就かれたのですか?

藤井氏:環境コンサルティングの会社に就職しました。大きな企業は、自分の会社やグループ全体が環境にどれくらい負荷を与えているのか、その負荷をどのように減らして行くのか、といったことをまとめた環境報告書というものを出しています。また環境問題への取り組みだけでなく、従業員や取引先、顧客、地域社会など、企業と社会との関わりについて報告する、サステナビリティ報告書やCSR報告書を出す企業も増えてきました。新しい仕事はそういった報告書の企画や出版を手伝うという仕事でした。
その会社は「持続可能な社会を次世代に残す」ということを企業理念に掲げて、企業の活動がグローバルになった今、企業の活動を変えることが人間社会の持続可能性を左右するという考えのもと、報告書づくりを通じて色々な企業に「未来のために今後何をしていくべきなのか」というのを、独立した第三者の立場で一緒に考えていたんです。

JP2:その会社で、具体的にはどのようなことをされましたか?

藤井氏:私はディレクターとして、ライターさんやカメラマンさんを呼んで、企業の社長にインタビューをしたり、各部署の方から資料を集めたりしたものを記事にして、デザイナーと相談しながらひとつの報告書にまとめていきました。例えば一つの大企業が利益追求だけでなく、もっと広い視野で将来の環境や社会のために積極的に行動していくと宣言すれば、その言葉を聞いて他の企業も変わるはず。そうすれば社会全体が良い方向へ変わっていく。そう思って1年半ほど頑張っていました。

JP2:環境に関わる仕事を辞めて農業を始めようと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?

藤井氏:コンサルティングの仕事にはやりがいを感じていましたが、ある時から「もっと直接的に自分が何かをやりたい」「やっぱり自然の中で仕事がしたい」という思いが、日に日に大きくなっていきました。また妻と将来の理想の生活について話をしたときに、「子育てをするなら田舎の方が良いね」という気持ちで一致していて、田舎暮らしへの憧れがありました。そんなときに、農家ではない人が農家になる、新規就農という方法があることを本やインターネットで知り、自然相手の仕事と田舎暮らし、両方を実現できるのは農業じゃないか、と考えたのが農業を始めたきっかけです。

JP2:農業をはじめるにあたって、長野を選んだ理由はなんだったのでしょうか?

藤井氏:インターネットなどで新規就農について情報を集めていたところ、会社員をやめて長野県佐久市で新規就農した方が経営している無農薬・無化学肥料の農園を見つけて、連絡をとって会いに行き、お話を伺いました。そして、その方が農業を習った師匠にもすぐに会いに行き、研修生として受け入れてくださるというので、ここに決めました。

JP2:農業を始める前と後で、ご自身で感じる変化はございますか?

藤井氏:新規就農は独立して起業するということでもあるので、何をするのか、全て自分で自由に決められるようになったことが一番大きな変化ですね。 また東京で仕事をしていた頃は、食事は外食中心で、残業でいつも帰りが遅く、慢性的な睡眠不足、という不健康な生活を送っていました。でもここに来て農業を始めてみると、毎日農作業で体を動かすのでぐっすり眠れますし、体に余計な脂肪がつかない。東京にいたときとは真逆の、健康的で人間らしい生活になりました。

JP2:農業をされているこの地域の特徴を教えてください。

藤井氏:ここ長者原は、白菜・キャベツ・レタスなどの高原野菜の一大産地となっています。一方で、過疎化・高齢化が進んでいて、後継者の居ない農家が離農することも多いです。
私たちが住んでいるこの集落は少し特殊で、私たちのように新規で入ってきた若い就農者が他にもいたり、また昔からの農家にも私たちと同世代の後継者が育っていて、子供が多く、すごく理想的な農村だと思います。


JP2:やはりこういうところだと近隣の人とのコミュニケーションも多いですか?

藤井氏:そうですね。東京だとアパートやマンションでお隣同士でも、引越しの挨拶をしたきりだったり、その挨拶すらなかったりしますよね。でもここでは、ご近所さんは集落を維持したり、何かが起きたときに助け合ったりする共同体的組織です。家族の次くらいに密接に関わっている存在で、何かがあったときに頼れる人がいるという安心感がすごくあります。うちは子供が3人居ますが、近所に同世代の家庭も多く、子供がお互いの家に遊びに行くことが多いので皆で一緒に子育てしている感じです。

JP2:農業を始める際の資金は貯められたのですか?

藤井氏:私も妻も、東京にいたときからあまりお金を使わない方だったので、初期費用としては十分な貯蓄がありました。ただ、研修をしていた1年間は収入がなかったので、貯蓄を取りくずす生活をしていました。初めは県の勧めで2年間研修する予定だったのですが、早く自分で始めたい気持ちとお金がもったいないという気持ちがあり、1年で研修を切り上げて独立しました。

JP2:残っている資金だけで大変ではなかったですか?

藤井氏:長野に来て1、2年は、農業をしながら在宅でシステムエンジニアの仕事もしていました。システムエンジニアの仕事はどこでも出来ますし、まだそのときは冬の作業が少なかったので、以前勤めていた会社から仕事をもらっていました。
その後、段々と冬も野菜が出荷できる体制になり、忙しくなってきたので、システムエンジニアの仕事をやめましたが、そういうどこででも出来る職を持っていたから、思い切ってこの地に来れたというのもあるかもしれないですね。私も妻も楽観的な性格なので、農業で失敗しても他の仕事をすればいいという気持ちでした。だからこそ、「1回農業に挑戦してみよう。失敗してもなんとかなるでしょ!」と気楽に一歩を踏み出せたのだと思います。

JP2:ここからはお仕事についてお聞きします。現在、藤井農園の規模はどれくらいですか?

藤井氏:現在は1.5ヘクタールの敷地内で、露地の畑と無加温のビニールハウス5棟で栽培をしています。

JP2:何種類の野菜を育てていらっしゃるのですか?

藤井氏:全部で約40~50種類くらいですね。毎年新しい品目や品種を取り入れて、それを食べたお客様の反応などを参考に、より美味しい野菜を選ぶようにしています。野菜の品種選びにはいろいろな基準がありますが、市場の出荷規格に合わせるために生育の揃いの良さや作りやすさなどが重視される傾向があり、結果として一番重要な「美味しさ」がないがしろにされていると感じます。私たちは何よりも美味しさを重視した品種選びにこだわっています。

JP2:やはり日本だけでなく海外の野菜にも興味がありますか?

藤井氏:そうですね。飲食店に需要があるので、ヨーロッパのカラフルな野菜や珍しい野菜なども少しずつ増やしています。

JP2:無農薬・無化学肥料で栽培をしようと思ったきっかけはありますか?

藤井氏:東京に住んでいたときに、農薬や化学肥料に対する負のイメージがあったからですね。DDTや枯葉剤のような人体に害のあるイメージが強くて。だから、農業をやるのであれば無化学肥料、無農薬でやりたいと思っていました。ただ、実際に農業を始めてみると、日本の残留農薬基準は厳しくて、その基準を守って使用している限りは人体に影響はないということもわかってきました。

JP2:人体に影響がないと知った上で、無化学肥料、そして無農薬での栽培にこだわる理由はなんですか?

藤井氏:それが一番自然だと思うからです。たとえ安全だとわかっていても、自分や家族が食べる野菜に、化学的に合成して作られた肥料や農薬など本来の自然にはないものを使う気になれないんです。
最終的には食べたものがその人の体の一部になるので、使わずに済むのであれば使わない方が良いと考えています。実際に農薬も化学肥料も使わずにおいしい野菜を作ることができているので、使う必要をまったく感じません。

JP2:無化学肥料というのは具体的にどのような肥料なのですか?

藤井氏:無化学肥料とは、そういう肥料があるわけではなく、「化学肥料をまったく使わない」という意味で、有機肥料だけを使って、もしくは肥料を使わずに栽培することを指しています。有機肥料というのは、鶏糞や稲わらなど動物性や植物性の有機物を微生物によって発酵させ、植物が取り込みやすい状態に分解したものです。自然界にあるものが自然のプロセスによって肥料になったものを有機肥料といいます。

JP2:その他に農業をする上で気を使っていることはありますか?

藤井氏:毎年土壌分析をして、土に足りない養分やミネラルを補ってあげるということを大切にしています。土の状態を健康に保ってあげれば、作物の根が健康に育ち、根が健康であれば、作物の虫や病気に対する抵抗力が強くなるという考えです。

JP2:土の養分というのは場所によって違うものなんですか?

藤井氏:過去にどんな肥料をどれだけまいたのか、そこで何を育てていたかということで違ってきます。私たちの畑は、もともと近所のおじいさんとおばあさんの夫婦が30年前まで酪農をしていた畑で、牛糞と稲わらで作った堆肥を毎年沢山入れていたそうです。その後、長年使われない間に大きく育った雑草が積み重なり、有機質と肥料分が豊富な、有機栽培での野菜作りに有利な畑になっていました。

JP2:開墾し始めるときの土地の状態はどのような状態だったんですか?

藤井氏:ものすごい荒れ様でしたね。オオブタクサという草丈3mくらいの雑草で全体が覆われて、ところどころケヤキや桑の大木も生えていて、中がどうなっているか分からないジャングルのような状態でした。それをまずは草刈機で刈り、チェーンソーで木を切り倒して、木の根は近所の農家さんに頼んで大型機械で掘ってもらって、一枚一枚畑にしていきました。独立した時点で畑になっていたのは4分の1くらい。その後は野菜を出荷しながら徐々に畑を広げていって、3~4年かけて今の畑になりました。

JP2:今後広げていく予定はありますか?

藤井氏:規模を拡大するつもりは、今のところありません。現在の定期宅配のお客さんに、今よりももっと満足してもらえるように、野菜セットの品質を高めたいと思っています。

JP2:作った野菜を売る際に気をつけていることはありますか?

藤井氏:自分たちの手で最終消費者、つまり料理する方に売るということを大切にしています。自分たちがどのように野菜を作って、どこが良いのかなど、野菜の価値をきちんとアピールし、ここでしか買えない野菜としてブランディングすることが大切だと思っています。市場を通して売ると、私たちが作った野菜の良さを食べる方に直接伝えることは出来ません。
野菜が美味しかったというお客様の声を直接聞けるのが、この売り方の最大の利点であり、一番やりがいを感じるところです。それだけでどんな苦労も報われてしまいますね。

JP2:今後、どのように仕事の展開をしていきたいと思っていますか?

藤井氏:もうすぐ10年目を迎えるので、今後10年をどうしていくかというのが課題ですね。なんとか想像がかたちになり、家も建てられました。お客さんも増えて、仕事にも生活にも満足しています。これからの10年では、もっとたくさんの方に来ていただけるような、よりオープンな農園にしていけたらと思っています。

奥様:規模拡大などは考えていないですね。まだ子供たちも手のかかる時期ですし、ここに来るときに「家族の時間を大切にしたい」という思いもあったので、今は子供との時間を大切にしたいです。でも、10年後には子供たちも大きくなって、もっと色々なことを考えられる時間が増えると思うので、そのときは何か面白いことを出来たらいいなと思っています。例えば、お料理教室にもうちの野菜を送っているので、そのお料理教室で野菜についてのレクチャーをするとか、教室に通っている人を呼んで農業体験をしてもらうとか、ビジネスをしているお客さんとコラボレーション企画などをするのも楽しいんじゃないですかね。今後10年でもっと色々なことに挑戦したいです。

JP2:何か藤井農園としての大きな目標はありますか?

奥様:やはり、利益だけを追求するのは面白くないので、人との関係を豊かにしていきたいという思いがあります。田舎というのは、人との繋がりがすごく濃いじゃないですか。村という単位で人がちゃんと繋がっているから、誰がいるのか、どういう人がいるのかを全員が把握している。みんな信頼し合っていて、困ったときはお互い様っていう気持ちが根付いている。そういうところが、本当に良いなと思うんですよね。だから、そういう「人と人との繋がりがちゃんと見える社会」を広げていきたいです。

JP2:農業を志す人に何かメッセージをお願いします。

藤井氏:脱サラして農業を始めるというのは、世界が違いすぎて覚悟がいることだと思いますが、本当にやりたいのなら「とにかくやってみる」ことが大事だと思います。仮に農業で収入を100%得られなくても、それまで培った技術や知識などを活かして地域に貢献して副収入を得る。それで、とりあえず生活はできますし、その地域も豊かになります。とにかく動き出して欲しいです。是非うちに相談に来てください。

 

藤井農園
住所:〒384-2203 長野県佐久市布施一の原
Tel & FAX:050-3583-4600

藤井農園

ホームページhttp://fujiifarm.com/

 

 

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